このウイスキーの特徴を簡単にまとめると
このウイスキーについて
今回ご紹介する「キリンウイスキー陸」は2020年5月に発売されたウイスキーで、原酒不足により惜しまれながら終売となってしまった「富士山麓 樽熟原酒50°」の後継ボトルという位置づけで販売されているブレンデッドウイスキーです。
その「キリンウイスキー陸」ですが、2022年の4月5日にデザインが一新。陸という文字が金色で大きくなり、旧ラベルよりも親しみやすいパッと見て明るい印象へと変わりました。
リニューアル前の陸については過去のレビュー記事を御覧ください。
近年の原酒不足によってワールドブレンドといった、世界中のモルト原酒とグレーン原酒をブレンディングしたボトルを見かけるようになりました。原酒の量に至っては日本より古くからウイスキー文化のあるスコットランドやアメリカの方が豊富なストックが有るため、海外から蒸留所不明のバルク原酒が輸入され、日本の原酒とブレンドすることで新しい感覚の味わいを造り出している傾向にあります。
今回ご紹介するキリンの「陸」というウイスキーは富士御殿場蒸留所が作り出す個性豊かなグレーン原酒とモルト原酒をブレンディングすることで造り出されるウイスキーで、今までは影の存在であったグレーンウイスキーという存在を表舞台に昇華させた、長年のウイスキーファンからすれば奇をてらったウイスキーでもあります。
富士御殿場蒸留所について簡単に
キリンディスティラリーが所有する富士御殿場蒸留所は国内はおろか世界的に見ても非常に優れたグレーンウイスキーを製造している蒸留所の一つです。グレーンにおいての最高賞の受賞歴もあり、グレーンという脇役的な原酒を主役に押し上げた素晴らしい蒸留所です。
そんな、富士御殿場蒸留所の特徴で最も重要な要素は3種類の原酒を生み出す為に、3つのタイプの蒸留器で原酒を造り分けていることです。
- ライトタイプの原酒を生み出す、マルチカラム蒸留器
- ミディアムタイプの原酒を生み出す、ケトル蒸留器
- ヘビータイプの原酒を生み出す、ダブラー蒸留器
異なる性質の原酒を造り分けることで、個性的且つバランスの取れた味わいを作り出すことが出来ます。グレーンという主張の少ないウイスキー原酒でありながら、今までの価値観に囚われないウイスキー造りをしている富士御殿場蒸留所は本当にすごいですね!!
数あるブレンデッドウイスキーの中でもグレーンウイスキーを主体にモルト原酒がブレンディングされている、いわばグレーンが主役のブレンデッド「キリンウイスキー陸」ですが、裏のラベルにもグレーンが主役である表記がなされています。
通常のブレンデッドウイスキーであれば原材料名のところに、最初はモルトがくるはずですが、「陸」はグレーンが最初に来ています。また、国内におけるジャパニーズウイスキーの定義がされてから発売となった今回の「新ボトル」には、ちゃんと「国内製造」、「英国製造」という表記があり、使われている原酒についてもキチンと明記してあるのがわかりますね!?
キリンウイスキー陸のこだわり
小樽を使用しての熟成
ウイスキーの最も重要な工程の一つである「熟成」の際に、「キリンウイスキー陸」はバーボンウイスキーで用いられる180Lの小さめの樽「バレル」で熟成を行っています。
大きい樽で仕込んだほうが効率も上がりますが、小さい樽で熟成を行うことにより、原酒と樽の内側の表面積が大きくなり、樽材からの要素が反映されやすくなるという特色があるからです。
ノンチルフィルタード製法
陸では、樽から出したそのままの美味しさに近い味わいを目指して、通常のウイスキーでは行う冷却濾過(チルフィルター)を行わず、あえて最低限の加水調整後に瓶詰めされます。
冷却濾過をしないということは、澱なども含んでしまいますが同時に冷却濾過によって除去されるウイスキーの香味成分がそのまま残るということにも繋がります。
キリンとしては、美味しいウイスキー(原酒に近い状態)をちゃんと味わってほしいという、企業のこだわりが反映されているんですね!!
ワールドブレンドウイスキーやグレーンウイスキー系の物は、バーボンに使われる原酒(トウモロコシ主体)のフレーバーが目立ち、中途半端な印象が未だに拭いきれていない為、筆者は好んで飲みません。(個人的感想ですのでご了承ください)
ですが、新商品でもあるので・・・3種類の飲み方でしっかりレビューしてみたいと思います。後半には新旧飲み比べも少しだけ記載しています。それではいってみよ〜!!
テイスティング(実際に飲んでみた)
フレーバーチャート
味わいチャート
ストレートで飲んでみる
香り
- バニラ、キャラメル、カスタード、ビスケット、花、ミント
味わい
- グレーンらしいライトな口当たり、フローラル、50度を感じないスムースさ
感想
まずはストレートから飲んでみます。香りは甘くウッディなバニラやキャラメル、しっとりとした印象のカスタードの様な香りを最初に感じます。続いて穀物っぽい香ばしさのビスケットも感じ、少し加水して時間を置くと、旧ボトルでも感じた「花」を思わせるフローラルな香りがして、清涼感のあるミントっぽい香りも感じることが出来ます。
口に含むと、甘くウッディな香りとは裏腹に以外にサラっとした軽い口当たりで、このへんはグレーンらしい軽やかなテイストがあります。口に中では、フローラルな香りがしてバーボンウイスキーに似たグレーンの独特のニュアンスが広がります。アフターにかけてはビターで時折スパイシーな要素も感じられました。
アルコール度数50度という割に、トゲトゲしさもなくスッと飲めてしまうところは素晴らしいです。度数の高いウイスキーは加水によって変化を楽しめ、好みに調整出来るのも面白いですね。
ロックで飲んでみる
香り
- キャラメル、バニラ、花、ユーカリ、リコリス、リンゴ、セメダイン
味わい
- カラメルの様な凝縮した甘さ、ソフトながらしっかりとしたビター感
感想
次は氷を入れてオンザロックで飲んでみます。香りはバーボンウイスキーによく似たバニラやキャラメルの甘さがあり、生花の様なニュアンスが漂います。そして、ストレートの時はミントに感じた香りも少しハーヴの様な香りに変わり、ユーカリやリコリスの様な甘みを帯びた草っぽさがあります。若干ですが青りんごの様な香りと、バーボンウイスキーによくあるセメダインの様なケミカルさも顔を出しました。
口に含むと、柔らかな口当たりながらちょっとツンっとする感じのフローラルさが口の中に広がり、甘さとビターが同じ様なバランスで消えていきます。2杯目以降、氷が溶けて加水が徐々に進むと、生花やセメダイン臭が強まり、フォアローゼスの様なバーボン感が一層に強まっていきます。
ハイボールで飲んでみる
香り
- 花(フローラル)、バニラ、キャラメル
味わい
- 優しい甘さと香ばしいアフター
感想
最後はハイボールで飲んでみます。香り立ちはバーボンウイスキーと同系統のフローラルさで溢れ、微かにですがバニラやキャラメルの甘い香りが感じとれます。
口に含むと、炭酸の爽快感の中にシリアル感のある香ばしさが広がって、中盤から余韻にかけては優しい甘さが口の中に漂います。ストレートやロックで引き立っていたフローラル感、そしてビターが影を潜めて一気に飲みやすい味わいに変わりました。グレーン主体ながら、モルトっぽいの香ばしさと甘さがほのかに香るあたりはハイボールが正解かもしれません。フワッと香る甘さと香ばしさは飲み飽きず、「ホッと出来る」優しい味わいで、一日の終りに最適な印象を持ちました。美味いっ!!
旧ボトルとの比較(ストレート)
旧ボトルと新ボトルを同時に開栓して飲み比べをしてみました。
フレーバーチャート
味わいチャート
新ボトルと旧ボトルを比較してみて
ストレートでは・・・
新ボトルと旧ボトルの比較、まずはストレートで飲み比べてみます。香りはどちらも同系統の香り立ちですが、旧ボトルには華やかさがあります。若さ?フレッシュ?といった感じもしますが、果実感が感じられたのは旧ボトルの方で、新ボトルはどちらかというと落ち着いた印象があり、ウッディで甘く柔らかさを感じるのは新ボトルでした。
口に含むと、旧ボトルはピリピリとしたアルコール感があってバーボンウイスキーを飲んでいるような感じが全面にありますが、新ボトルの方はアルコール感があまりなく、味わいもどこか粉っぽさや香ばしさを覚え、柔らかくて飲みやすいのが特徴的です。
ハイボールでは・・・
次はハイボールにして飲んでみます。香り立ちはどちらも同系統で変わりありませんが、旧ボトルは華やかさはあるものの、セメダインっぽい香り立ちが強くツンとした刺激的な感触があります。新ボトルの方はというと、ミントや青りんごの様な果実感が僅かにあり、カドが無くまろやかな印象です。
口に含むと、旧ボトルはビターが強くアフターにかけてエグみに感じる要素がありますが、新ボトルは香ばしさと甘さがほのかに感じられ、旧ボトルに比べると遥かにマイルドで味わいに関しても新ボトルに軍配が上がります。
まとめ
旧ボトルとの比較も交えて「キリンウイスキー陸」のレビューをしてみました。
今回のように旧製品と比較することで味わいにどの様な変化があるのかが明解にわかります。そして、それが意味するものは、企業側の都合であったり(原酒不足や構成の見直し)マーケットの求める物への対応であったりします。
今回の「キリンウイスキー陸」のリニューアルについては、個人的な意見ですが「美味しくなった」の一言に尽きます。ウイスキーの場合、原酒には限りがあるのでどうしても「デザイン一新」と謳いながら、中身に妥協点があったりする傾向にありますが、陸に関して言えば旧ボトルのネガティブに感じ取れる要素が大幅に減り、ウイスキーとして単純に美味しく、飲みやすくなっていますし、アルコール感も強く感じない優しい味わいに仕上がっています。
ラベルデザインだけを見たときは正直「あぁ~陸もかぁ~」といった、落胆に近い気持ちでしたが、飲んでみて明らかにウイスキーとしての味わいに磨きがかかっていると感じれたのは良い意味で裏切られた気分です。
3種類の飲み方でレビューしましたが、陸の良さをしっかりと感じる為には、もちろんストレートですが、アルコール度数が強い分、取っ付きづらいところもあるので、飲み方をオススメされたら迷わず「ハイボール」と答えます!!ほんのりとした甘さ、香ばしい香りが心地よく私自身が苦手なグレーン系のバーボン臭さも少ないので、幅広い方に好まれる味わい仕上がっていると思いました。
(バーボンも好きです。ただ、バーボンはないのにバーボンの要素があるのが苦手なんです)
旧ボトルと新ボトル、もう少し時間をかけて飲み比べしながら時間と変化を楽しみたいと思います。
最後までお読み頂きありがとうございました。
テイスティングに使用しているグラス「ゲレンケアン」、クリスタル製なのに丈夫で倒れにくく洗いやすい!!しかも、安価という素晴らしいウイスキーグラス。
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